縦に吹くフルートについて


2006.7写真を追加

●フルートをそのまま縦にしたもの
フルートを縦に構えて吹くために頭部管を曲げたものは、かなり昔から考案されていたものと考えられます。販売されているものとしては、例えば、UpRite Headjointがあります。ここでは、左右がほぼ対称となるため、左右の耳に届く音に偏りがない(フルートは右耳側の音量が大きい)、体をひねることなく自然な構えで吹けるという点などが利点として上げられています。Flute LabでもErgonomical flute headjointsとして紹介されています。90°曲げ以外にも45°程度曲げたものもあるようです。
フルーティストのJohn Hackettは、縦吹きフルートを吹いています。(ジェネシスのギタリストSteve Hackettの弟)



●歌口を尺八の構造としたもの
オークラウロ(オークラロ)は、大倉喜七郎氏(ホテルオークラ創立者の大倉喜八郎の息子)が、大正10年頃に尺八の改良を思い立ち、昭和10年9月に発表。 詳しくは、下記のHPを参照下さい。
「マルセル・モイーズ研究室」の「モイーズ雑学講座」25
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Miyuki/8422/Sono_mlg25_Ohkurauro.html
バス〜ピッコロまでの5種類のオークラウロの写真と、リアルオーディオでの演奏音も聞けます。曲「旅愁」編曲は、""福田蘭童""、演奏:福田真聴

小関康幸氏のHP、コーヒーブレイクの97,98回
第97回 : オークラロをこの眼で見た日(2001年2月6日)
http://www.ne.jp/asahi/yasuyuki/koseki/coffee_1_yyyymmdd/coffee_1_20010206.htm
ソプラニーノのF管の写真、ケースの写真などがあります。
第98回 : オークラロに初トライして失敗するまで(2001年2月8日)
http://www.ne.jp/asahi/yasuyuki/koseki/coffee_1_yyyymmdd/coffee_1_20010208.htm




大倉集古館「大倉喜七郎と邦楽」・「美術に視る音色」

泉州尺八工房 オークラウロ
大倉集古館での演奏、泉州工房と秋山フルート工房での製作や改良の方法、スタジオでの小湊昭尚氏の演奏など

小湊昭尚氏の演奏によるCDも発売されていて、大倉集古館や泉州尺八工房で購入できるようです。(素晴らしい演奏です)



書籍
「日本フルート物語」近藤滋郎著 音楽之友社
オークラウロが、約2〜3ページ紹介されています。
当時の広告写真も掲載されていて、以前吹いたことのあるものと同じものでした。広告での値段は確か6円と12円の2種類あり。
村松の創始者もこの楽器には、否定的だったそうです。
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4276210534.html

kameさんの
http://www.kumagaya.or.jp/~kame/db/AV/SP/minyo.html
ここのSPレコード・リストによると、赤坂小梅の歌う宮崎県民謡「稗搗節」の伴奏に菊池淡水がオークラロを吹いているそうです。


国立情報学研究所のデータベース
http://wwwsoc.nii.ac.jp/nokk/JG/JN/J_Detail_na008_066.htm
中能島欣一が、1939年に「箏・三絃・オークラロのための小組曲」を作曲しています。
楽器構成は、箏12,三絃,オークラロで、曲集は、征戦,文楽に寄す,祭り、の3曲からなっています。
初演1939年10月(備考:三絃は太棹にても可,オークラロは尺八にても可)

インターネットの電子図書館
http://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/33188_16391.html
著作権フリーとなった書籍を公開している青空文庫にある、宮本百合子の「獄中への手紙」の 一九三九年(昭和十四年)六月二十六日、第五十六信に、オークラロがでてきます。
#宮城道雄の人となりにも興味が持たれます。

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昨日は、例の俗仙人内田百間とロシア語の米川正夫とが桑原会というのを宮城道雄のところで開き、招待が来ていました。大倉喜八郎(?)或は喜七(?)が「オークラロ」という尺八の改良したものを発明してそれを自分でふく。その日に。どうもそういう顔ぶれみたら気が重くなって行きませんでした。宮城という人の箏(こと)はきいてよいものの由です。こういう会でもね、宮城という人は自分のうちで開かせますが、自分はひかない。挨拶だけをする。ね、気質わかるでしょう? 利口さも。伍してはしまわないのです。おたいこならざるところを示すテクニックを心得ている。十分ひきよせつつ。フムというところがありますね。
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管楽器の雑誌「PIPERS」 2006年3月号の表紙にオークラロが使われています。
記事中では、所蔵している「及川鳴り物博物館」が、他の珍しい楽器と共に紹介されています。




●"新オークラウロ"1
フルーティスト古城鴻也氏が、フルートの音色に物足りなさを感じ、泉州工房に縦吹きのフルートの製作を依頼し、1999年に木管フルートの頭管部を黒色の樹脂製パイプに差し替えた楽器が完成。現在は竹製も作られています。
演奏する古城鴻也氏

自主制作のCD「定笛響The Sounds Of Jou-Flauto」

どちらかというとフルート寄りの演奏でした。
泉州工房のHPの"楽譜・教則本・CD・ビデオ"の中で紹介されており、購入できます。

2006.1 私も三塚幸彦さん(泉州工房代表)に作ってもらいました。抜群に鳴ります。(YAMAHAのリングキーFluteにプラ管の頭管部)
尺八をちゃんと鳴らせる人ならば、筒音から、藤原道山くらいしか使いこなせていないような大甲のピあたりまでをかなり楽に鳴らせます。 鳴らす技術という点では尺八と同じであって、尺八の練習にもなるのというのもいいところです。
フルート本体は、リングキーにしてみましたが、フルートは、全ての半音が問題なく出せ、尺八と同様にメリカリによって音程調整もできるので、リングキーの利点は、あまりありませんでした。
フルートでは、必ずしも鳴らし易くない筒音付近の低音は、全て尺八で鳴らし易い乙ロのように楽に鳴らせます。


演奏例(私)




●"新オークラウロ"2
Tai Hei Shakuhachiでは、竹製のフルート用頭管部を、シャクルート(Shakulute)という名称で発売しています。竹と金属製フルートがつながっているという、見た目にもインパクトがある楽器です。
演奏活動に使っている谷藤紅山さんのHPでは、2004年ニューヨーク尺八フェスティバルでの招聘演奏の演奏のもようなどの他、Shakuluteでオリジナル曲を演奏したCDの試聴ができます。
CD「Shakulute Live In Concert」発売はTai Hei Shakuhachi

どちらかというと尺八寄りの演奏でした。


(オークラウロ、古城氏の楽器、Shakuluteの3種類を吹いてみた感想)
オークラウロは、良く鳴らない、出来の悪い尺八といった程度の楽器でした。うろ覚えですが、頭管部のサイズがフルートと同じ内径のため、狭すぎていたのかもしれません。鳴りに直接影響する接合部やタンポなどを調べてみましたが、異常はありませんでした。 #フルートは10回以上分解・組立したことがあるので、たぶん間違いない!
##(後日わかったこと。これは本物のオークラロではなく偽物?だった可能性もあります。)
"新"オークラウロは両者とも、メリカリとムライキなどが自在に使え、非常に良く鳴る尺八というイメージで吹けるフルートでした。
特に数回吹かせてもらったことのある古城氏の楽器は、管体が黒檀製の高級木管フルートであり、尺八に近い音色で良く響きました。全ての半音が自在に出るのは不思議な気分でもありました。
両者ともリングキー式のフルートでなかったので、メリに加えて指孔の半開というような操作は試せませんでした。
楽器が長いので、手の短い人には、多少キーが押さえつらいと思われます。
尺八奏者にとっては、鳴らすのは楽であっても、運指ができないという問題があります。速い動きの運指ができるというフルートの利点を生かして例えば、ハンガリー田園幻想曲などのような曲を全曲吹くとしたら相当な訓練が必要で、尺八を長年やっている人にはほぼ不可能でしょう。
一方、フルーティストにとっては、運指の問題はありませんが、大きな歌口を使って鳴らすには、アンブシュアの変更が必要で、これまた、かなりの訓練が必要であると思われます。古城さんはフルートに近いアンブシュアで吹いています。フルート寄りの音で吹くならば大きな変更は入りません。
従って、最も適しているのは、フルートから尺八に転向した尺八奏者(この逆は聞いたことがない)(であって、どちらにも満足しきってはいない人)なのでしょう。




●九孔尺八
縦吹きのフルートは、多孔尺八とも関連性があります。
九孔尺八は、昭和の初め頃に考案されていますが、なかなか見聞きする機会はありませんでした。
杉沼左千雄さんは、故山口五郎さん内弟子でもあった人ですが現在は九孔尺八を駆使してジャズインプロビゼーションを中心に活動しています。(日暮里の邦楽ライブハウス和音の管理人でもある<2005.6閉店>)
殆ど全てのキーを自在に吹き分けて、テンションの高い、超絶技巧を聞かせます。自由度はサックス等のアドリブと同じです。
10回位は吹かせてもらったことがあると思いますが、バランス良く全ての音が鳴ります。大メリなどによる古典的な手法も問題なく活用できます。
12音階の全てには孔が3つ足りませんが、3音共に少しメルだけの中メリで済むので慣れればどんな音階でも演奏に支障ないと思われます。

アルバムは2枚出ています。
「DUO」杉沼左千雄〈尺〉/北陽一郎〈Ninja Jobkey・Tp〉
 フリーインプロビゼーションが中心
「一枚目」杉沼左千雄〈尺〉/木村俊介〈笛・津軽三・箏〉/内藤哲郎〈太鼓〉
 オリジナル曲

なお、通常の五孔尺八に補助孔を開けて七孔にするのは、多用されています。しかし、さらに2つ開けて九孔にしても、全体のバランスが崩れて無理なようです。八孔にしたプラ管の「悠」を所有していますが、乙ロ他の鳴りがかなり悪くなっています。 製作している香揚山工房では、孔の位置と大きさを全てについて修正し、内径も変えているようです。



横笛の篠笛を縦にするという発想のもとで作られた笛としては、緒野尺八製作所の「尺八笛」があります。
(以前は、"しの尺"とも言っていたようです)
非常に短い尺八を作ろうとすると、内径を細くしないと鳴らすのが難しくなります。(特に第2オクターブ以上が難しい)
十分に細い篠笛を縦にすれば篠笛と同じ音域で鳴らしやすい縦笛ができるのでしょう。
吹き口部分だけを大きくして吹きやすくしてあるようです。










2005.1.15 - 立花 宏